第7話
10代は悩みが多いんだ!
ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか、ニ、ニ、ニーチェかサルトルか~、みーんな悩んで大きくなった!
……突然思い出した昭和のCMです。野坂昭如さんの歌です。当時小学生が大声で歌っていましたよ。知らなかったらごめんなさい。
そう、思春期――ほぼ10代のうち――って悩みがいっぱいなんです。ほとんどの人が大人になったら忘れてしまうけど、初めての経験の連続で、あらゆることが大問題!学校の悩み、勉強の悩み、友人関係の悩み、恋愛の悩み、進路の悩み、家族関係の悩み、身体の変化の悩み、外見に対する悩み、自分はどうあるべきか的な悩み……
さらに近年で問題を複雑にしているのは、情報が増えたことによる、スマホやSNSを伴う人間関係、いじめや孤立、家庭の経済事情なども含まれ、10代では背負いきれない大きな問題も混在してそうです。
ソクラテスの時代はともかく、20世紀生まれの私たちの時代とも違う複雑さ、現代の10代の苦労たるや、いかばかりかとお察しします。
10代の脳は目まぐるしく変化していく
それでも、どんな時代に生まれようと、それはそれ。大人になる過程は誰にでもやってくる。そんな10代は脳が発達して成熟に向かう、とんでもなく重要な時期なのです。
10代の脳の神経細胞は新しい経験に目覚めるたびにシナプスを形成し、細胞同士で連携が始まります。どんどん回路がつながり、複雑に絡み合っていきます。そして同時に行われるのが、「シナプスの刈り込み」。最初は縦横無尽に絡み合わせたシナプスの不必要な部分を刈り取っていく。植木職人が植栽と刈込を同時に行うようなもの?(違う気もするけど、まあいいとして)10代はこの「シナプス形成」と「シナプス刈り込み」が同時に起きていて、いろいろ揺れ動くのです。
でもそうして時間をかけて「植栽」と「刈込作業」されたのちに、きれいなお庭が出来上がるわけです。
10代の脳は「まだ完成に至らず工事中」いわゆる「脳のリモデリング期」として扱われます。
この時期に脳細胞に直接作用するもの――アルコールとか薬物とか――をとってしまうと、この大事な大事な「シナプス形成」と「シナプスの刈り込み」が邪魔されるのは当然ですね。
ストレスが脳に与える影響
脳に作用する深刻な悪影響…といえば、もうひとつ、「ストレス」があります。
2017年、Translational Physiatry誌の総説によると「思春期はストレスに特別弱い」(1)。
その理由は、1) 扁桃体(ストレスキャッチャーのアーモンド君 ※第3章参照)が過敏だったり、2) 感情のコントロールや集中力をつかさどる前頭前野が未熟だったり、3) 快楽や刺激への感度が高い報酬系(ドーパミン)が強くはたらいたりするんだそうです。
その脆弱な時期にストレスを受けると…「シナプスの刈り込み」が過剰に行われてしまう。つまり必要なシナプスまで失ってしまうのです。先に挙げたアルコールや薬物も同様です。わかりやすくいうと、脳神経の繋がり、脳の回路がいまひとつ、残念な結果になってしまうのです。
中でも前頭前野・海馬の回路が弱くなる…つまり情緒不安定になったり、記憶力低下につながるのです。
皆さんも聞いたことのある「海馬」。それはいったい何物か。
ギリシャ神話の「海の馬」ヒッポカムポス、のちにタツノオトシゴの学名へと転じるわけですが、そんな形の脳の一部。耳の奥のほうにある小指ほどの器官です。ここが記憶をつかさどるといわれています。ここが弱ってしまったら、勉強はもちろん生活にも大いに差し支えるところです!
ところが昔に比べて現代の10代にはストレスの危険がいっぱいです。だからと言って記憶力の低下を見過ごすわけにはいきません。
……だがしかし、そこで朗報がありました!!

2019年、米国科学アカデミー紀要(またPNAS、好きなんです)より、思春期における健康的な栄養摂取は、慢性的なストレスが脳の発達に及ぼす悪影響を防ぐ、という論文が発表されました(2)。先に書いたように、思春期は脳とストレスシステムの発達的変化と再編成の時期です。この時期に直面するストレスからこどもたちを救うことが大人の役割ではありませんか!?
思春期のネズミたちによると……
ヒトの10代に相当する生後30日(中学生くらい)の30匹のラット(マウスよりちょっと大きいネズミ)を10匹ずつ3群に分けました。
げっ歯類であるマウスやラットは、脳と腸の相関性がヒトと類似しているのだそうです。
A群はコントロールとして非ストレス+普通食、B群はストレス+普通食、そしてC群はストレス+特別食、と分け、生後45日(高校入学くらい)まで毎日続けます。
ストレスの与え方です。各ラットを直径10 cmの丸いプラスチックに入れ、1時間孤独にさせます。
次に見知らぬラットと同じケージに入れ次の日まで過ごします。これを15日間 繰り返し、毎日新たな知らないラットととの同居生活。思春期特有の「社会ストレスモデル」だそうです。かわいそうに(図1)。

特別な食事の効果は……!
ストレスがかけられたラットは、記憶力が低下しました。それを裏付けるように海馬の成長と維持に不可欠な分子BDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor; 脳由来神経栄養因子)が減少しました。そして腸内細菌叢が大きく変化し、乱れました。
しかし、特別食を食べていたラットは慢性ストレスを受けても、それらの異常が抑制されたのです。
以下にまとめます(図2)。

この現象は、思春期特有のものなのかを検討するために、彼らは同じことを生後70日の大人ラットにも行っています。生後70日とはヒトでは20代前半の成人にあたるそうです(!)。
すると、大人のラットの記憶力は低下しなかったし、海馬の栄養、BDNFも低下しなかった。そして腸内細菌叢もほとんど変わらなかった。10代の脳は感情のアクセルが強くてブレーキが弱い、けれど大人になるとそのブレーキが働くようになるらしい。つまり、大人になるとストレスに強くなっている!
10代の健康を守ろう!
思春期って無敵だったような気もするけれど、同時にガラスのような脆さも持ち合わせている。まだまだ成長の途中。気が付かないことはたくさんあるけれど、みんな一生懸命なんだ。
時代によって悩みの種類は微妙に変化するけれど、悩みそのものはなくならないけれど、悩みからくる脳や腸の不調を乗り越えて、健康な大人に成長することができる。このラットたちの特別食、ω-3脂肪酸(DHA*とかEPA**)を含む食品とビタミンAを摂取すれば、悩みからくる体調不良、成長不良を防ぎ、なおかつ、健康的な「脳」の発達につながるらしい。
ω-3脂肪酸が多いのは、子どもでも食べやすいサーモン、ツナ、さば、そしてくるみや豆乳。
ビタミンAは卵、チーズ、バター、そしてにんじんやかぼちゃなどの甘い野菜に多く、
これらが思春期の成長を助ける大切な食材なんですね。さあ、今日から食事に取り入れて毎日食べると良いかもね。
このテーマで調べているうちに、いまさらながら、若い時に勉強する大切さをあらためて感じました。そして食事の大切さも。どうやらいつの間にかストレス耐性のある大人になっていて我ながらホッとしています。

それにしても冒頭のCMソング、数十年ぶりに思い出したんだけど、その先もちょっとだけ続きがありました。 みーんな悩んで大きくなった!のあと、(でっかいわ~ 大物よ~♡)って女声コーラスが入ります。なんかココが小学生ながらにフフッと笑えるツボでした。わからない人、ごめんなさい。
*DHA…ドコサヘキサエン酸 血液をサラサラにしたり脳を作ったりする「良い脂」
**EPA…エイコサペンタエン酸 心臓や血管の健康に良く、体の炎症を落ち着かせる
二つは同じ「魚の脂」なんだけど、合わさると最強なのだそうです!!あれっ?じゃあ魚って頭いいのかも!
C. M. Hueston, J. F. Cryan, Y. M. Nolan, Stress and adolescent hippocampal neurogenesis: diet and exercise as cognitive modulators. Transl Psychiatry 7, e1081 (2017).
G. Provensi et al., Preventing adolescent stress-induced cognitive and microbiome changes by diet. Proc Natl Acad Sci U S A 116, 9644-9651 (2019).

