コミュニケーション

「大丈夫です」で終わらせない~中間層の疲弊を防ぐラインケア~

「頼れる人」ほど、負荷が集中していませんか?

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職場で「最近、忙しそうだけど大丈夫?」と声をかけたとき、「大丈夫です」と返ってきたら、そこで安心してしまうことはないでしょうか。
もちろん、本当に問題がない場合もあります。しかし、中間層の社員の場合、「大丈夫です」という言葉だけで判断するのは少し注意が必要です。
中間層は、現場の実務を担いながら、後輩の相談に乗ったり、上司の意図をメンバーに伝えたり、顧客や他部署との調整を行ったりと、さまざまな役割を担うことがあります。いわば、チームの「ハブ」のような存在です。

さらに、責任感が強く、仕事ができる人ほど「自分がやったほうが早い」と考え、周囲から頼まれた仕事を引き受けやすくなります。
その結果、「あの人なら大丈夫」と、難しい案件や相談、調整業務がいつも同じ人に集まってしまうことがあります。

こうして、本人に悪意もなく、周囲も悪気なく、少しずつ負荷が偏っていきます。そして気づいたときには、「Aさんに聞かないと進まない」「Aさんしか調整内容を把握していない」といった、いわゆる「Aさんにしかできない状態」ができあがっていることがあります。
だからこそ、ラインケアで見るべきなのは、単純な「忙しさ」だけではありません。誰に仕事が集中しているのか、誰が相談役・調整役になっているのかという、職場の負荷の構造を見ることが重要なのです。

不調は突然現れるものではない。「いつもの違い」に気づく

高ストレス状態や心身の不調は、ある日突然、目に見える形で現れるとは限りません。その前段階として、日常の行動や周囲との関わり方に、小さな変化が表れることがあります。
たとえば、以前よりメールの返信が遅くなった、ミスや抜け漏れが増えた、残業が増えた、会議での発言が減った。あるいは、イライラしやすくなった、表情が硬くなった、雑談が減った、周囲への反応が以前と違う、など。
こうした変化は、一つだけなら「たまたま忙しい時期なのかもしれない」と感じるかもしれません。しかし、複数の変化が重なっていたり、それがしばらく続いていたりする場合には、一度立ち止まって様子を確認してみることが大切です。

ここで大切なのは、「一般的にどういう人なのか」ではなく、「その人のいつもとくらべてどうか」を見ることです。
特に中間層は、責任感が強いからこそ、負担を感じていても自分から「つらい」「限界です」とは言わず、「忙しいだけなので大丈夫です」「問題ありません」と答えることがあります。
本人からの自己申告だけではなく、普段との違いや、仕事の状況も含めて見ていく必要があります。

声をかけるときは「原因探し」より「状況確認」

では、「いつもと少し違うな」と感じたとき、どのように声をかければよいのでしょうか。
心配するあまり、「何が問題なの?」「結局どうしたいの?」「もっと早く言ってくれればよかったのに」と言ってしまうことがあります。もちろん、本人を責めたいわけではなく、「何かできることはないか」「早く解決してあげたい」という思いから出る言葉でしょう。
しかし、こうした言葉は、本人に「きちんと説明しなければ」「自分で解決しなければ」と感じさせ、かえって話しにくくしてしまうことがあります。

そこで意識したいのが、決めつけない、急いで解決しようとしない、そのまま受け止めるという3つの姿勢です。
たとえば、「最近、遅い時間まで対応している日が続いているように見えるけれど、今の業務量はどうですか?」、「以前より抱えている案件が増えているようだけれど、負担感はどうですか?」など、まずは自分から見えている「事実」を伝え、そのうえで本人の状況を聞いていきます。
そして、「大丈夫です」と返ってきたとしても、無理に本音を引き出そうとする必要はありません。反対に、「大丈夫と言っているから問題ない」と、そのまま終わらせるのも避けたいところです。
大切なのは、本人の言葉を尊重しながら、一緒に仕事の状況を整理することです。

「大丈夫」を否定せず、一緒に仕事を整理する

仕事の状況を整理するときには、「今、一番負担が大きい仕事は何か」「自分にしかできない役割が増えていないか」「締切が重なっていないか」「周囲に頼りにくい理由はないか」といった視点から確認していきます。
たとえば、本人は「忙しいだけ」と思っていても、実際に仕事を書き出してみると、大型案件を複数抱えながら、後輩の育成、顧客対応、他部署との調整、会議資料の作成まで、一人で担っていることが分かるかもしれません。
このように具体的に整理していくことで、「確かに、この仕事にかなり時間を取られている」「この調整は自分に集中している」と、本人自身が負荷の偏りに気づくこともあります。
ここで重要なのは、「あなたは、本当は大丈夫ではない」と本人を説得することではありません。
「大丈夫」という本人の認識を否定するのではなく、本人の言葉と、実際の仕事の状況を一緒に見ていくことです。
そして、負荷が集中していることがわかったら、次に考えたいのが「どうすれば本人の負担を減らせるか」です。

まずは、本人が本来担うべき仕事と、いつの間にか引き受けている仕事を整理します。
また、すべての仕事を「やらなければならない」と考えるのではなく、今、本当に優先すべき仕事は何か、「何をやるか」だけでなく「何を今はやらないか」まで整理することが、負荷の調整につながります。

「支える」だけでなく、「偏らせない」職場へ

中間層の疲弊を防ぐためには、本人に「無理をしないで」と伝えるだけでは十分ではありません。
そもそも、なぜその人に仕事が集中しているのかを見直す必要があります。
そのためには、仕事にかかっている時間や相談・調整の件数、締切の重なりなどを具体的に把握し、「忙しそう」という感覚を、実際の負荷として可視化していくことが有効です。

さらに、「その人にしかできない仕事」と「その人にしかわからない仕事」を分けて考えることも重要です。専門性が必要で、どうしても本人が担う必要のある仕事はあります。一方で、必要な情報や判断基準が本人にしか共有されていないために、「その人にしかできない」状態になっている仕事もあります。
そうした場合には、情報や判断基準をチームで共有する、手順や過去事例を残す、一部の業務から少しずつ他のメンバーに任せる、といった工夫によって、チーム全体で仕事を回せる状態に近づけることができます。
ラインケアというと、「不調になった人をどう支えるか」という視点が中心になりがちです。しかし、本当に大切なのは、一人で抱え込まなくてもよい職場をつくることです。
「最近、いつもと少し違うな」と気づくこと。そして、その人自身だけでなく、「今、誰に仕事や役割が集中しているのか」にも目を向けること。気になることがあれば、問い詰めるのではなく、一緒に仕事を整理すること。

「大丈夫です」で終わらせず、「支える」だけでなく「偏らせない」。

この視点を持つことが、中間層の疲弊を防ぎ、チーム全体で無理なく仕事を回していくための、これからのラインケアにつながっていくのではないでしょうか。

よくある質問(Q&A)

Q1. なぜ「頼れる人」ほど負荷が集中しやすいのですか?

責任感が強く仕事ができる人ほど「自分がやったほうが早い」と考え、周囲から頼まれた仕事を引き受けやすくなるためです。その結果、難しい案件や相談、調整業務が同じ人に集まり、「その人にしかできない状態」ができあがることがあります。

Q2. 「大丈夫です」という言葉だけで判断してはいけないのはなぜですか?

特に中間層の社員は責任感が強いため、負担を感じていても自分から「つらい」とは言わず、「大丈夫です」と答えることがあるからです。本人からの自己申告だけでなく、普段との違いや仕事の状況も含めて見ていく必要があります。

Q3. 不調のサインとして、どのような変化に気づけばよいですか?

メールの返信が遅くなる、ミスや抜け漏れが増える、残業が増える、会議での発言が減るといった変化や、イライラしやすくなる、表情が硬くなる、雑談が減るといった変化が挙げられます。一つだけでなく、複数の変化が重なっていたり続いていたりする場合は注意が必要です。

Q4. 「いつもと違う」と感じたとき、どのように声をかければよいですか?

「何が問題なの?」のように原因を問い詰めるのではなく、決めつけない、急いで解決しようとしない、そのまま受け止めるという3つの姿勢が大切です。自分から見えている事実を伝えたうえで、本人の状況を聞いていきます。

Q5. 本人の負担を減らすために、どのような工夫ができますか?

本人が本来担うべき仕事といつの間にか引き受けている仕事を整理し、優先すべき仕事を見極めることが有効です。また、情報や判断基準をチームで共有する、手順や過去事例を残す、一部の業務を他のメンバーに任せるといった工夫で、チーム全体で仕事を回せる状態に近づけられます。

ABOUT ME
【コンサルタント】池田 三菜子
子育てをしながらのチームマネジメントの経験から、自身の失敗談も含めて、現場の声に寄り添った情報を発信してまいります。 「残業時間を減らす業務改革」と「個人の得意分野を生かすチーム作り」をモットーに、一社でも多く働きやすい職場づくりのお手伝いをさせていただきます。