4月は企業にとって新たな人材を迎える大切な時期です。
一方で、従業員にとっては、仕事内容や職場環境、人間関係などが大きく変化するタイミングでもあります。
新しい環境への適応にはエネルギーが必要であり、知らないうちにストレスを感じていることも少なくありません。
こうした時期に重要となるのが「雇い入れ時安全衛生教育」です。
雇い入れ時安全衛生教育は、企業の自主的な取り組みではなく、労働安全衛生法に基づき、事業者に実施が義務付けられている教育です。
労働安全衛生法第59条では、事業者は労働者を雇い入れたときに、その業務に関する安全や衛生のための教育を行うことが定められています。
(安全衛生教育)
第59条 事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。
出所:労働安全衛生法
この教育は、作業上の安全だけでなく、働き続けるための健康管理の基礎を伝える重要な機会でもあります。
近年では、メンタルヘルス対策の観点から、ストレスへの理解やセルフケアについて労働者に伝えることの重要性が高まっており、雇い入れ時安全衛生教育もそうした内容を伝える貴重な機会です。
雇い入れ時安全衛生教育の役割とは?
雇い入れ時安全衛生教育の主な目的は、労働者が安全で健康に働くために必要な知識を身につけることです。
具体的には、職場の安全衛生ルール、作業に伴う危険性、健康管理の基本などについて教育を行います。
しかし、実際の現場では、労働災害防止などの安全対策に重点が置かれる一方で、メンタルヘルスについては十分に触れられていない場合もあります。
特に入社直後は、新しい環境に慣れる過程でストレスを感じやすい時期でもあります。
たとえば、新しい業務への不安、上司や同僚との関係づくり、仕事の責任へのプレッシャーなど、さまざまな要因が重なり、本人が気づかないうちに負担が蓄積することがあります。
また、新入社員の場合は、体調や気分の変化を周囲に相談しにくいこともあります。そのため雇い入れ時安全衛生教育では、「ストレスは特別なものではなく、誰にでも起こり得るもの」であること、そして「早めに気づき、適切に対処することが大切」であることを伝えることが重要です。
こうした基本的な理解を持つことが、メンタルヘルス不調の予防につながります。
ストレスチェック制度を周知しよう
雇い入れ時安全衛生教育の中で、ぜひ周知しておきたい制度の一つが、「ストレスチェック制度」です。
ストレスチェック制度は、労働者自身が現在のストレス状態を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐことを目的とした仕組みです。
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回の実施が義務付けられています。
しかし、実際には制度の内容や目的が十分に理解されていないケースも少なくありません。
特に新入社員や中途入社者は、制度の目的を知らないまま、ストレスチェックを受検してしまうこともあります。
雇い入れ時安全衛生教育では、ストレスチェックの実施時期や方法だけでなく、その目的や仕組みについても丁寧に説明することが重要です。
たとえば、ストレスチェックの結果は本人のセルフケアに役立てるためのものであり、個人情報が適切に保護されていることを伝えることが重要です。
また、高ストレスと判定された場合には、医師による面接指導を申し出ることができることも周知しておくことが大切です。制度の趣旨を正しく理解してもらうことで、従業員が安心してストレスチェックを受け、自身の健康状態を振り返るきっかけにもなります。
セルフケアについても周知しよう
雇い入れ時安全衛生教育では、制度の説明だけでなく、日常生活の中で実践できるセルフケアについても紹介しておくと効果的です。
ストレスへの対処は、日々の生活習慣の中で行えることが多くあります。
日常生活の中で取り組めるセルフケアの例として、以下のようなものが挙げられます。
- 十分な睡眠を確保する
- 適度に体を動かす
- 規則正しい食事を心がける
- 仕事とプライベートの切り替えを意識する
- 自分なりのストレス発散手段を持つ
さらに、悩みや不安を一人で抱え込まないことが大切です。
困ったときには信頼できる人に相談することが、問題の深刻化を防ぐことにつながります。
そのため、上司や人事担当者だけでなく、産業医や保健師、社外相談窓口など、職場で利用できる相談先を具体的に紹介しておくことも重要です。
雇い入れ時安全衛生教育は、従業員が健康について考える最初の機会です。
この機会に身体の安全だけでなく心の健康についても理解を深めてもらうことで、従業員自身が主体的に健康管理を行う意識を育てることができるでしょう。
ドクタートラストでは、ストレスチェックの実施支援から職場のメンタルヘルス対策まで幅広くサポートしています。
新年度の体制づくりについてお気軽にご相談ください。
<参考>
・ 農林水産省「労働安全衛生に関する教育を実施しましょう!」
・ 厚生労働省「労働安全衛生法に基づく ストレスチェック制度 実施マニュアル」
・ 一般財団法人中小建設業特別教育協会「雇い入れ時の教育について(FAQ)」
・ 一般社団法人安全衛生マネジメント協会「雇入れ時教育とは」
Q&A(よくある質問)
Q1. 雇い入れ時安全衛生教育は、どのような企業に実施義務がありますか?
A. 業種や企業規模を問わず、労働者を新たに雇い入れたすべての事業者に実施が義務付けられています。労働安全衛生法第59条に基づく法定教育であり、正社員だけでなくパートタイマーや契約社員も対象となります。
Q2. 雇い入れ時安全衛生教育にメンタルヘルスの内容を含める法的義務はありますか?
A. メンタルヘルスに関する内容を含めることは法律で明示的に義務付けられているわけではありませんが、厚生労働省はメンタルヘルス対策の一環として、入職時にセルフケアやストレスへの理解を促す教育を推奨しています。新入社員がストレスを感じやすい時期であることを踏まえ、積極的に取り入れることが望ましいです。
Q3. ストレスチェック制度を新入社員に周知するタイミングはいつが適切ですか?
A. 雇い入れ時安全衛生教育のタイミング(入社直後)が最適です。制度の目的や個人情報の取り扱い、高ストレス者への面接指導申請の方法などをあわせて説明することで、実施時期になって初めて知るという状況を防げます。
Q4. ストレスチェックの結果は会社に知られてしまいますか?
A. 個人の結果は本人の同意なく事業者に提供されることはありません。ストレスチェックの結果は本人のセルフケアを目的としたものであり、個人情報として適切に保護されています。この点を入社時にきちんと伝えることで、従業員が安心して受検できる環境づくりにつながります。
Q5. セルフケアの教育は産業医や保健師がいない企業でも実施できますか?
A. 実施できます。厚生労働省が公開している資料やe-ラーニングコンテンツを活用することで、専門職がいない企業でも基本的なセルフケア教育を行うことが可能です。ただし、より実効性の高い教育を行いたい場合は、産業医や保健師の活用を検討することをおすすめします。


