どんな企業であっても、従業員の「メンタルヘルス」は避けて通れない課題です。
現在では、従業員数50名未満の企業でもストレスチェックの活用が推奨されるなど、メンタルケアは単なる福利厚生ではなく、組織の存続に関わる最重要課題となっています。
しかし、「どこから改善すべきか」と足踏みし、大掛かりな対策を考えては頓挫してしまうケースも少なくありません。
そこで、私がコンサルタントとして提案しているのが、従業員自身が職場の環境を自ら改善していく「ワーク・リノベーション」です。
誰かに命じられるのではなく、自分たちが毎日過ごす場所を、自分たちの手で心地よく、機能的に作り替えていく。実はこのプロセスこそが、最高のメンタルヘルスケアになります。
なぜ自発的な動きが心の健康を守るのか、そのメカニズムと実践方法を紐解いていきましょう。
なぜ「主体的な改善」が最強のメンタルケアになるのか
ストレスチェックの基盤となっているのは、ロバート・カラセックが提唱した「JDCモデル(仕事の要求度-コントロールモデル)」です。
ここに「S(Social Support:周囲のサポート)」を加えたものがJDCSモデルと呼ばれます。
この理論では、「仕事の負担が大きくても、自分の裁量(コントロール感)が広く、周囲の支援があれば、ストレスは軽減される」と考えます。
逆に言えば、最もメンタルを病みやすいのは「負担が大きいのに、自分では何も変えられない(コントロール感がない)」状態です。
主体的な改善活動は、まさにこの「コントロール感」を取り戻すプロセスにほかなりません。
「裁量を上げる」というと管理職の仕事に聞こえるかもしれませんが、実は現場のちょっとした工夫で、誰にでも取り組むことができます。
仕事のやり方を変えずに「裁量」を上げる3つのアプローチ
①「やらされ感」からの脱却
上から言われた通りに動く「歯車」ではなく、自ら環境をデザインする「当事者」を目指します。
「この仕事は誰の役に立ち、どう社会に貢献しているのか」を主体的に捉え直すことは、自己肯定感を高め、結果として仕事に対するコントロール感を向上させます。
② 日々の「小さなトゲ」を抜く
使いにくい共有ファイル、非効率な会議、暗黙のルール……。
業務そのものよりも、こうした「微細なストレス」は徐々に心に疲労を感じさせます。
これらを自分たちの手で解消していくことで、「自分たちで環境を変えられた」という確かな自己効力感が生まれます。
③「つながり」による安心感
改善活動を通じて「困っているのは自分だけじゃない」と気づくことは、心理的なセーフティネットになります。
問題を共有し、協力して解決するプロセスが、孤立を防ぎ、互いを思いやる強いチームを作ります。
改善活動を加速させる「4つの具体策」
こうした活動がうまくいかない原因の多くは、現場に蔓延する「あきらめ」です。
こうした壁があるからこそ、まずはストレスチェックで組織の現在地を知り、何がブレーキになっているのかを見極める必要があります。
壁を突破し、楽しみながら職場を良くしていくために、以下の4つの導入を検討してみましょう。
「声」を拾う安全な場所を作る(仕組み)
・匿名性とアクセスの良さ:デジタル目安箱などを活用し、本音を吸い上げる。
・否定禁止ルール:会議の数分を「改善タイム」とし、「でも」「無理」を禁止して全てのアイデアを歓迎する。
「小さな成功」をデザインする(意欲)
「楽にするため」に絞る:売上のためではなく「自分が5分早く帰るため」の改善を推奨する。
承認の仕組み:「助かったよ」というサンクスカードや社内表彰で承認欲求を満たす。
具体的な「やり方」の地図を渡す(方法)
テーマのメニュー化:「デスク整理」「チャットルール」など、身近な例を提示する。
付箋のワークショップ:不満を書き出し、「すぐできるか」「効果が大きいか」で分類して可視化する。
「やりっぱなし」にさせない(評価)
プロセスの可視化:提案が「検討中」「実施中」「完了」のどこにあるかを全公開する。
プロセス評価:改善の結果だけでなく、「問題を提起したこと」「協力したこと」自体を加点対象にする。
持続可能な職場は、みんなの手で
メンタルヘルス対策の本質は、従業員を単に「守る」ことだけではありません。
一人ひとりが環境を良くしていけるという実感、つまり「ワーク・リノベーション」の達成感こそが、最強の盾となります。
「職場がストレスフルなのは会社のせいだ」という眼鏡を一度はずし、隣の人と「これ、もうちょっと楽にできないかな?」と話すことから始めてみませんか。
管理職がすべてを背負うのではなく、全員で環境を作り上げる。
その一歩を支えることこそが、真のメンタルヘルスケアなのです。
よくある質問(Q&A)
Q1: ワーク・リノベーションとは何ですか?
A: ワーク・リノベーションとは、従業員自身が職場の環境を自ら改善していく取り組みです。誰かに命じられるのではなく、自分たちが毎日過ごす場所を、自分たちの手で心地よく、機能的に作り替えていくプロセスを指します。
Q2: なぜ自発的な改善活動がメンタルヘルスケアになるのですか?
A: 主体的な改善活動は「コントロール感」を取り戻すプロセスだからです。仕事の負担が大きくても、自分の裁量(コントロール感)が広く、周囲の支援があれば、ストレスは軽減されることが研究で示されています。
Q3: JDCモデルとは何ですか?
A: JDCモデルは、ロバート・カラセックが提唱したストレスチェックの基盤となる理論です。J(Job:仕事)、D(Demand:要求度・忙しさ・責任の重さ)、C(Control:裁量権・自分の意思で決められる範囲)の3要素で構成され、これにS(Social Support:周囲のサポート)を加えたものがJDCSモデルと呼ばれます。
Q4: 最もメンタルを病みやすい状態とはどのような状態ですか?
A: 「負担が大きいのに、自分では何も変えられない(コントロール感がない)」状態が最もメンタルを病みやすいとされています。仕事の要求度が高く、裁量権が低い場合にストレスが最大化します。
Q5: 「やらされ感」から脱却するにはどうすればよいですか?
A: 上から言われた通りに動く「歯車」ではなく、自ら環境をデザインする「当事者」を目指します。「この仕事は誰の役に立ち、どう社会に貢献しているのか」を主体的に捉え直すことで、自己肯定感を高め、仕事に対するコントロール感を向上させることができます。
Q6: 日々の「小さなトゲ」とは具体的に何を指しますか?
A: 使いにくい共有ファイル、非効率な会議、暗黙のルールなど、業務そのものよりも微細なストレスを指します。これらを自分たちの手で解消していくことで、「自分たちで環境を変えられた」という確かな自己効力感が生まれます。
Q7: 改善活動がうまくいかない原因は何ですか?
A: 改善活動がうまくいかない原因の多くは、現場に蔓延する「あきらめ」です。具体的には「言っても無駄(学習性無力感)」「これ以上仕事を増やされたくない(防衛本能)」「正解がわからない(不安感)」といった壁があります。
Q8: 「声」を拾う安全な場所を作るにはどうすればよいですか?
A: デジタル目安箱などを活用して匿名性とアクセスの良さを確保し、本音を吸い上げます。また、会議の数分を「改善タイム」とし、「でも」「無理」を禁止して全てのアイデアを歓迎する否定禁止ルールを設けることが効果的です。
Q9: 「小さな成功」をデザインするポイントは何ですか?
A: 売上のためではなく「自分が5分早く帰るため」など、自分自身が「楽にするため」の改善に絞ることです。また、「助かったよ」というサンクスカードや社内表彰で承認欲求を満たす仕組みを作ることも重要です。
Q10: 改善活動を「やりっぱなし」にしないための工夫は何ですか?
A: 提案が「検討中」「実施中」「完了」のどこにあるかを全公開してプロセスを可視化します。また、改善の結果だけでなく、「問題を提起したこと」「協力したこと」自体を加点対象にするプロセス評価を導入することが効果的です。



「仕事のプレッシャーで夜眠れない……」
「職場の人間関係を考えると気が重い……」