2025年5月、従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施を義務づける「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律案」が成立し、2028年には施行される見通しです。
すでに導入に向けて準備を始める企業が増えています。
現時点でストレスチェックの実施が義務づけられている50人以上の事業場では、年1回の実施が求められていますが、実施時期の選定は各社の裁量に委ねられています。
本コラムでは、ストレスチェックの実施時期をどう決めるべきか解説します。
ストレスチェックの実施時期に関する法的要件
法的根拠
労働安全衛生法には下記のとおり記載されています。
(心理的な負担の程度を把握するための検査の実施方法)
第52条の9 事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次に掲げる事項について法第66条の10第1項に規定する心理的な負担の程度を把握するための検査(以下この節において「検査」という。)を行わなければならない。
出所:労働安全衛生法
一 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目
二 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目
三 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目
つまり、ストレスチェックは年1回以上、定期的に実施する義務があります。
労働安全衛生法では、ストレスチェックは1年以内ごとに1回の実施が義務ではありますが、具体的な実施時期の指定はありません。
そのため事業場内の衛生委員会等で話し合った上で実施時期を決定することができます。
ただし、労働安全衛生法でも「定期に」と記載があるように、特別な事情がない限りは、毎年同じぐらいの時期にストレスチェックを実施するよう心がけましょう。
毎年同じ時期に実施することで、経年での結果比較がしやすくなるメリットもあります。
避けるべき4つの実施時期
具体的に下記4つが挙げられます。
ストレスチェックでは、「最近1カ月間のあなたの状態について」心身の状態を尋ねる設問があります。そのため、一時的に状態が変化している時期に実施すると、正確な結果が得られない可能性があります。
1. 繁忙期
業務量が急増する時期は、一時的にストレスが高まっているため、普段の状態を正確に測定できません。
また、忙しさのあまりストレスチェックが後回しにされ、受検率が低下するおそれもあります。
2. 閑散期
繁忙期とは逆に、業務量が極端に少ない時期も避けるべきです。
普段とは異なる心理状態であるため、通常の職場環境でのストレス状態を把握できません。
3. 連休前後
ゴールデンウィーク、お盆休み、年末年始などの大型連休の前後は避けましょう。
- 連休前:連休を控えて業務が集中し、一時的にストレスが高まる
- 連休後:気持ちの切り替えがうまくできず、仕事が憂鬱に感じやすい
4. 人事異動が多い時期
異動直後は、新しい業務への適応や人間関係の構築中であり、ストレス状態が不安定です。
異動から最低でも2〜3カ月は経過してから実施することが望ましいでしょう。
以上のことから、繁忙期、閑散期、連休前後、人事異動が多い時期はストレスチェックの実施を避けるのが望ましいでしょう。
最適な実施時期はいつ?
理想的なのは、業務が安定しており、従業員の心理状態が比較的平常である時期です。
実施時期の選び方
一般的な企業の場合
- 6月~7月:新年度の業務と異動が落ち着いた頃
- 9月:夏季休暇明けで業務が安定した頃
- 2月:年末年始休暇明けで業務が安定した頃
繁忙期が部署ごとに異なる場合
- 部署別に実施時期を分ける
- 各部署の閑散期を把握し、分散実施
より詳細に把握したい場合
- 年2回実施(例:5月と11月)
- 経年変化や季節変動を把握できる
実施時期を決める際のポイント
- 人事異動から2〜3カ月以上経過しているか
- 大型連休の前後1カ月を避けているか
- 業界特有の繁忙期・閑散期を考慮しているか
- 前年と同時期に実施できるか(経年比較のため)
- 受検期間を2週間程度確保できるか
まとめ
ストレスチェックの実施時期は、結果の精度や受検率に大きく影響します。
- 法律上は「1年以内に1回、定期に」実施
- 毎年同時期の実施で経年比較が可能に
- 避けるべき4つの時期:繁忙期・閑散期・連休前後・人事異動期
- 最適な時期:業務が安定している4~5月、または9~10月
ストレスチェックは、従業員のメンタルヘルスを守るための重要な制度です。実施時期を適切に選ぶことで、より正確な結果を得て、効果的な職場改善につなげましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1:ストレスチェックは年に何回実施する必要がありますか?
A: 労働安全衛生法により、年1回以上の実施が義務付けられています。ただし、より詳細に従業員の状態を把握したい場合や、部署ごとに繁忙期が異なる場合は、年2回実施する企業もあります。
Q2:毎年実施時期を変えてもいいですか?
A: 法律上は問題ありませんが、推奨されません。毎年同じ時期に実施することで、前年との結果比較がしやすくなり、職場環境の変化や改善効果を正確に把握できます。特別な事情がない限り、毎年同時期の実施を心がけましょう。
Q3:繁忙期にストレスチェックを実施するとどんな問題がありますか?
A: 繁忙期の実施には2つの問題があります。①一時的にストレスが高い状態で回答するため、普段の状態を正確に測定できない。②業務が忙しく、ストレスチェックが後回しにされて受検率が低下する恐れがある。これらの理由から、繁忙期は避けることが推奨されます。
Q4:人事異動直後にストレスチェックを実施してもいいですか?
A: 推奨されません。異動直後は新しい業務への適応や人間関係の構築中であり、ストレス状態が不安定です。異動から最低でも2〜3カ月は経過してから実施することで、新しい環境での安定した状態を測定できます。
Q5:部署ごとに繁忙期が異なる場合、どうすればいいですか?
A: 部署ごとに実施時期を分ける方法が効果的です。各部署の閑散期を把握し、それぞれに適した時期に分散して実施することで、全社的に正確な結果を得ることができます。または、年2回実施して、各部署が適切なタイミングで受検できるようにする方法もあります。
Q6:ストレスチェックの実施に最適な月はいつですか?
A: 一般的には、6~7月(新年度の業務が落ち着き、連休から期間が空いている)または9月(夏季休暇明けで業務が安定した頃)、2月(年末年始休暇明けで業務が安定した頃)が推奨されます。ただし、業種や企業の繁忙期によって異なるため、自社の業務サイクルを考慮して決定することが重要です。
Q7:連休前後を避けるべき理由は何ですか?
A: 連休前は業務が集中して一時的にストレスが高まり、連休後は気持ちの切り替えがうまくできず仕事が憂鬱に感じやすいためです。どちらも普段とは異なる心理状態であり、通常の職場環境でのストレス状態を正確に把握できません。連休の前後1ヶ月は避けることが望ましいでしょう。
Q8:受検期間はどのくらい設定すればいいですか?
A: 一般的には2週間程度が推奨されます。短すぎると繁忙や出張などで受検できない従業員が出る可能性があり、長すぎると回答を忘れたり後回しにされたりして受検率が低下する恐れがあります。自社の業務状況に合わせて調整しましょう。
Q9:50人未満の事業場でもストレスチェックを実施すべきですか?
A: 2024年3月の閣議決定により、2028年を目処に50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化される予定です。義務化前でも、従業員のメンタルヘルス対策として任意で実施することは可能であり、早期に取り組むことで従業員の健康管理体制を整えることができます。
Q10:年2回実施するメリットは何ですか?
A: 年2回実施することで、①季節変動やストレスの変化をより詳細に把握できる、②繁忙期が部署ごとに異なる場合でも全従業員が適切な時期に受検できる、③職場環境改善の効果を短期間で評価できる、といったメリットがあります。ただし、実施コストや担当者の負担も増えるため、自社の状況に応じて判断しましょう。


