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ストレスチェック50人未満の事業場における高ストレス者への対応方法【2025年最新】

ストレスチェック50人未満事業場への義務化の概要と最新動向

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2025年5月に公布された改正労働安全衛生法(令和7年法律第33号)により、従業員50人未満の事業場にもストレスチェック実施の義務化が決まりました。
背景には、精神障害の労災認定件数が過去10年で約2倍に増加し、小規模事業場での実施率が30%台と低迷していたことがあります。

施行スケジュールとしては、公布日(2025年5月14日)から3年以内に政令で施行日が定められ、遅くとも2028年5月までに義務化される予定です。

中小企業が対応すべきポイントとしては、①実施体制の整備(実施責任者・手順の明確化)、②従業員への目的説明とプライバシー配慮、③外部委託の検討や助成金活用、④高ストレス者への面接指導や集団分析による職場環境改善の準備などが重要です。

また今後、ストレスチェック制度が50人未満の組織にも義務化されます。
これに伴い、従業員50人未満の事業場にもストレスチェック実施の義務化により高ストレス者への事後措置は重要な課題となります。
当サイトを運営するドクタートラストも、特に産業医の選任義務がない中小企業や小規模の拠点から「誰に高ストレス者面談(面接指導)を依頼すべきか?」という相談を多く受け付けます。
50人未満の組織には産業医を選任する義務がない反面、高ストレス者への面接指導は実施しなくてはいけません。
配置転換が難しい、職場環境改善に限界があるケースも理解できますが、従業員の心身の健康を守るためには、高ストレス者への適切な対応は必須です。
そこで、今回は50人未満の組織における高ストレス者への対応方法について解説します。

ストレスチェック50人未満事業場への義務化準備ステップ

50人未満の事業場でのストレスチェック制度の詳細などは今後決まっていくことになりますが、想定される義務化準備は以下の通りです。

1. 社内体制の整備(実施者の選任、プライバシー保護対策)

まずは、ストレスチェックを実施する体制を整えることが必要です。医師や保健師などの実施者を選任し、社内での情報の取扱いや管理ルールを明確にして、個人情報や結果のプライバシーが守られる体制を構築しましょう。

2. ストレスチェック実施方法の選定(自社実施 vs 外部委託)

実施方法としては、社内で全てを行う「自社実施」か、専門業者へ依頼する「外部委託」があります。自社のリソースや専門人材の有無を踏まえて、業務負担や専門性の観点から適切な方法を検討しましょう。

3. 予算計画の策定と費用対策

ストレスチェックには、調査ツールの準備、実施者報酬、面接指導などのコストが発生します。外部委託の場合は業者選定と見積もり取得を早めに行い、予算に応じた助成金制度の活用も検討しましょう。

4. スケジュール立案と従業員への周知

義務化の施行時期(最遅で2028年5月)に向けて、余裕を持ったスケジュールを立て、社内に周知しましょう。従業員が安心して受検できるよう、目的・方法・結果の扱いなどを丁寧に説明することが重要です。

5. 高ストレス者面談の実施体制の準備

ストレスチェック後に高ストレスと判定された従業員には、産業医や医師による面接指導の希望を確認し、必要に応じて面談を実施する必要があります。実施体制や外部医師との連携体制を事前に整えておきましょう。

必要な準備を計画的に進めることで、制度への対応だけでなく、職場のメンタルヘルス向上にもつながります。

50人未満の組織における高ストレス者面談の依頼先

当サイトを運営するドクタートラストでは、「産業医を選任しておらず、高ストレス者から面談を申し出されたらどうすればいいか分からない」という相談をいただくことがあります。
実際に高ストレス者と判定された従業員のうち、面談を申し出るのはおよそ1割程度と言われていますが、いざという時に慌てないよう、ストレスチェック実施前に、「高ストレス者面談の申し出があった場合の対応方法」を検討しておくことが重要です。

  • 地域の産業保健総合支援センター(さんぽセンター): 各都道府県に設置されている「さんぽセンター」では、中小企業向けに産業保健に関する無料相談や情報提供を行っています。また、中小企業向けに無料で産業医の派遣を受け付けていることもあります。高ストレス者面談に関する具体的なアドバイスを受けられます。
  • 医療機関: 地域の精神科医や心療内科医は、企業向けにストレスチェック後の産業医面談を実施している場合があり、利用が可能です。
  • 産業医紹介会社やストレスチェックサービス事業者:スポット対応ができる産業医の紹介を依頼できます。また、ストレスチェックサービスを提供している事業者の中には、医師による単発の訪問面談を請け負っているところもあります。

また、小規模の拠点の場合、ほかの事業所で産業医の契約を行っているのであれば、その産業医に高ストレス者面談を依頼できる場合があります。
ただ、その場合、勤務状況や職場環境など組織の状況を把握しづらいことから、対応の可否については医師によって考え方が異なります。
受検前に契約内容を確認し、その産業医に対応がお願いできるか相談しましょう。
また、面談にかかる費用が発生した場合は企業負担となります。

高ストレス者面談の進め方と注意点

高ストレス者面談を実施する際には、企業担当者としていくつか注意点があります。
まず、面談は従業員の意思を尊重し、決して強制してはいけません。
面談の目的は、ストレスの状況や従業員のメンタルヘルスを含む健康状態を確認し、必要に応じて就業上の配慮を行うことです。
そのため、従業員に寄り添う姿勢で対応を行いましょう。

次に、面談で知り得た情報は個人情報として厳重に管理し、本人の同意なく外部に漏らさないように徹底してください。
面談を設定する担当者は守秘義務を理解し、従業員が安心して話せる環境を整える必要があります。
また、面談後、業務内容や労働時間、職場環境の見直しが必要な場合は、医師の指示だけに従うのではなく、本人と相談の上、適切な対応を検討していくことが大切です。

なお、進め方の詳しい説明については、過去の記事も参考ください。

50人未満組織でのストレスチェック後の職場環境改善策

前提として、「高ストレス者」とは、あくまでも「高ストレス状態な人」です。
つまり、これは「診断」ではなく、「状態」だということを理解しておきましょう。
どの職場でもストレスチェックを受検するだけではなく、結果の活用が望ましいです。
個人のストレス状態だけでなく、組織全体のストレス状況を把握し、職場環境改善につなげていきましょう。
なお、高ストレス者が出た場合、個別の面談だけでなく、組織全体としてストレスの原因を特定し、改善策を講じることが求められます。

たとえば、長時間労働の是正、ハラスメント対策の徹底、職場内でのコミュニケーションの活性化などの施策が挙げられます。
産業医がいない場合でも、衛生推進者や安全衛生推進者が中心となり、従業員の意見を聞きながら、職場環境の改善に取り組んでいくことが求められます。
ストレスチェックの結果を組織改善のチャンスと捉え、従業員が健康で働きやすい職場環境づくりを進めていきましょう。

小規模事業場向けストレスチェック実施の費用対策と助成金

また、50人未満の事業場がストレスチェックを実施する場合、以下のような助成金の活用可能性が考えられます。

1. 助成金制度の概要

従業員50人未満の小規模事業場が合同でストレスチェック実施および産業医活動を受ける場合、「ストレスチェック助成金」制度(現在は廃止済み)に準じて、1人あたり最大500円、産業医1回活動につき最大21,500円(上限3回)が助成されていました。
現在は、この制度に代わり「団体経由産業保健活動推進助成金」により、団体経由で産業保健サービス費用の90%(上限500万円/団体)まで助成されます。

※2025年度版はすでに締め切り済みです。最新動向は、労働者健康安全機構のウェブサイトを参照ください。

2. 申請方法と受給要件

従来制度では、同一都道府県内にある従業員50人未満の事業場2~10社が合同で集団を構成し、合同で産業医を選任、ストレスチェックと面接指導を実施することが要件でした。
現在の団体経由制度では、申請は事業主団体(商工会議所、企業組合等)または特別加入団体が行い、加盟企業(中小事業主)が産業保健サービスを受ける形になります。

3. 助成金を最大限活用するポイント

  • 小規模事業主は、同一都道府県内で合同実施の体制を整備し、団体に参加する準備を進めましょう。
  • 団体経由制度ではサービス①(ストレスチェック実施・集団分析)や⑦(職場環境改善支援)も対象になるため、必要な支援内容を明確化し、団体と契約・見積もり比較を行って最適化を図ると助成額を最大化できます。
  • 書類提出期限や団体の認定要件、参加条件を事前に確認し、助成対象となる費用を漏れなく把握することが重要です。

助成制度を理解し、合同実施や団体参加を検討することで、ストレスチェックや産業医支援導入時の費用負担を大きく軽減できます。

50人未満組織のストレスチェックに関するよくある質問

最後に「50人未満組織のストレスチェックに関するよくある質問(FAQ)」とその回答をまとめました。

Q1. 50人未満の組織でストレスチェックを実施する場合の費用相場は?

A. 実施方法により異なりますが、外部委託する場合は1人あたり500円~1,000円が一般的な相場です。産業医による面談対応や報告書作成を含むと、全体で数万円〜十数万円程度かかることもあります。複数事業場で合同実施することでコストを抑えることも可能です。

Q2. ストレスチェックの結果はどのように管理すればよいか?

A. 結果は個人情報として、厳重に管理する必要があります。実施者(医師・保健師など)が結果を直接管理し、事業者には本人の同意がない限り開示されません。結果の保存は5年間が推奨されており、社内のアクセス権限管理やファイル保護も重要です。

Q3. 産業医がいない場合の高ストレス者面談はどうすればよいか?

A. 法律上、面談指導は医師でなければ行えません。産業医がいない事業場では、外部の嘱託産業医や精神科医と契約して面談を依頼する必要があります。各地域の産業保健センターや労働局に相談すると、医師の紹介を受けられることもあります。

Q4. 義務化前に実施を始めるメリットは?

A. 制度義務化(最遅2028年5月)を待たずに導入することで、社内体制の整備・従業員の理解促進がスムーズに進みます。また、早期の職場環境改善やメンタル不調者の早期発見にもつながり、生産性の向上や離職防止に役立ちます。

Q5. 小規模事業場向けの簡易的な実施方法はあるか?

A.厚生労働省が提供する無料のストレスチェックツール(57項目版や簡易版)を活用すれば、自社内で低コストかつ簡便に実施可能です。

必要に応じて、制度開始前から少しずつ準備を始めることで、スムーズな対応と効果的な活用が期待できます。

<参考>
・厚生労働省「医学的知見に基づくストレスチェック制度の高ストレス者に対する適切な面談指導実施のためのマニュアル」
・厚生労働省「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ」
・厚生労働省「第217回国会(令和7年常会)提出法律案」

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【コンサルタント】中森 チカ
【保有資格】保健師、看護師、公認心理師、第一種衛生管理者、国家資格キャリアコンサルタント、健康経営エキスパートアドバイザー 【コメント】 病棟看護師、地域包括支援センターの保健師を経て、楽しく元気に働ける人を世の中に増やしたいと思い、ドクタートラストに入社。 働くみなさまの「行動が変わる、考え方が変わるきっかけ」になるような、情報をお届けしていきます。