「高ストレス者が面接指導を申し出てくれない」
「産業医にどこまで情報を提供すればいいのかわからない」
「事後措置をどう進めればいいのか悩んでいる」
ストレスチェック実施後の面接指導について、このような悩みを抱える人事・労務担当者は少なくありません。
本コラムでは、ストレスチェックの高ストレス者への面接指導の実施手順、から産業医との連携や事後措置まで、企業の実務担当者が知っておくべき実務内容を詳しく解説します。
※本コラムでは、面接指導を実施する医師を「産業医」と表記します。
- 高ストレス者への面談指導の実施手順(6ステップ)
- 産業医との効果的な連携方法
- 面接指導後の事後措置とフォローアップ
- よくある課題と解決策
- まとめ
- よくある質問(Q&A)
- Q1:高ストレス者が面接指導を申し出ない場合、企業はどうすればいいですか?
- Q2:面接指導は必ず対面で実施しなければなりませんか?
- Q3:産業医にどこまで情報を提供すればいいですか?
- Q4:面接指導の申し出から実施までの期限はありますか?
- Q5:産業医から就業制限の意見が出た場合、必ず従わなければなりませんか?
- Q6:面接指導の結果は人事評価に影響しますか?
- Q7:面接指導後のフォローアップはどのくらいの頻度で行うべきですか?
- Q8:面接指導の記録は何年間保存する必要がありますか?
- Q9:小規模事業場で産業医がいない場合はどうすればいいですか?
- Q10:高ストレス者への面接指導を実施しなかった場合、罰則はありますか?
高ストレス者への面談指導の実施手順(6ステップ)
高ストレス者面談は、一般的に以下の手順で実施されます。
| ステップ | 内容 | 留意点 |
| 1. 対象者の把握と申出勧奨 | 事業者は、ストレスチェック結果から対象者を把握し、面接指導の申出を勧奨する。 | 申出は労働者の任意であることを明記し、不利益な取り扱いをしないことを周知する。 |
| 2. 労働者からの申出 | 労働者は申出書を提出するなどして面接指導を希望する。 | 事業者は申出を遅滞なく受け付ける体制を整える。 |
| 3. 事前情報の提供 | 事業者は、労働者の勤務状況(労働時間、業務内容)、健康情報(ストレスチェック結果、健診結果など)を、面接指導を行う産業医に提供する。 | 情報提供は労働者の同意を得て行うことが原則。守秘義務を遵守する。 |
| 4. 面接指導の実施 | 産業医が労働者と面接を行い、心身の状況や業務の状況を確認し、必要な指導を行う。 | 原則として対面で実施。オンラインでの実施は要件(表情が分かるようカメラをオンにする等)を満たす場合に限る。 ※オンラインでの面接指導について 対面が原則ですが、以下の要件を満たせばオンライン実施も可能です。 ・映像と音声が双方向でやり取りできる ・表情が確認できるようカメラをオンにする ・通信環境が安定している ・プライバシーが保たれる環境で実施 |
| 5. 医師からの意見聴取 | 面接指導実施後、事業者は産業医から就業上の措置に関する意見を聴取する。 | 意見書は5年間保存する義務がある。 |
| 6. 事後措置の実施 | 産業医の意見に基づき、事業者は就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少などの適切な措置を講じる。 | 措置の決定にあたっては、労働者の意見を尊重する。 |
産業医との効果的な連携方法
面接指導の質を高めるには、産業医との連携が不可欠です。
- 情報提供の充実:面接指導の前に対象者の業務内容、労働時間の実態、職場環境に関する具体的な情報を産業医等に提供することにより、実態に即した指導や意見を提供できます。
【産業医に提供すべき情報の例】
・直近3カ月の時間外労働時間
・業務の繁閑状況(プロジェクトの進捗など)
・職場の人員体制(欠員の有無など)
・過去の健康診断結果
・ストレスチェックの経年変化
・本人が記入した自由記述(ある場合) - 守秘義務の徹底:面接指導の内容は機微な個人情報であり、産業医には守秘義務があります。事業者は、産業医の意見書に基づき就業上の措置を講じる際も、健康情報が不必要に拡散しないよう、情報の取り扱い範囲を限定するなど厳格な管理体制を整えておく必要があります。
面接指導後の事後措置とフォローアップ
面接指導後は、事業者は産業医の意見に基づき適切な事後措置を講じなければなりません。
事後措置の優先順位
面接指導後の事後措置は、以下の優先順位で検討することが推奨されます。
1.緊急性の高い措置:休養の確保、専門医への受診勧奨
2.就業上の配慮:労働時間の短縮、業務量の調整
3.環境改善:作業環境の改善、配置転換
4.継続的支援:定期的な面談、フォローアップ
事後措置の例
- 就業上の配慮
- 労働時間の短縮、残業・深夜業の制限、業務量の調整
- 業務内容の変更(負担の少ない部署への配置転換など)
- 作業環境の改善(騒音・温度の調整など)
- 休養の確保:状況に応じて、病気休暇や休職の取得を勧奨する。
- 専門家への受診勧奨:メンタルヘルス専門医など、外部の医療機関への受診を勧める。
フォローアップ
- 効果の確認:措置の実施後、産業保健スタッフや管理監督者が定期的に労働者の体調や業務への影響を確認します。措置が労働者の健康回復につながっているか評価しましょう。
- 継続的な保健指導:産業医や保健師による継続的な面談・保健指導を通じて、労働者のセルフケア能力を高め、健康を維持できるよう支援します。
- 再面接指導:必要に応じて、再度医師による面接指導を行い、健康状態の変化に応じて措置を見直します。
よくある課題と解決策
| 課題 | 解決策 |
| 労働者が面接指導を嫌がる | 不利益な取り扱いがないことを徹底的に周知し、申出の秘密が厳守される体制を確立する。面接指導の目的(健康保持・予防)を丁寧に説明する。 |
| 産業医に十分な情報が伝わらない | 労働時間だけでなく、業務負荷の具体的な内容、職場の人間関係など、定性的な情報も事前に報告書にまとめて産業医に提供する。 |
| 産業医の意見に基づいた措置が取れない | 予め就業制限に関するルールを策定しておく。措置による業務への影響を最小限にするため、代替要員の手配や業務の見直しを仕組み化する。 |
| 事後措置の継続的なフォローが不十分 | 産業保健スタッフ(保健師)を活用し、定期的なフォローアップ面談を実施する体制を構築し、管理監督者との情報共有ルールを明確にする。 |
| 面接指導の申出がほとんどない | 高ストレス者へのアプローチを工夫する。産業医や保健師から直接声をかける、上司から促す、申出方法を簡素化する(メールやWebフォームで受付)など、心理的ハードルを下げる施策を実施する。 |
まとめ
高ストレス者への面接指導は、従業員の健康を守り、いきいきと働ける職場環境を作るための重要な取り組みです。
法律上の義務であると同時に、メンタルヘルス不調による休職や離職を防ぐリスクマネジメント、そして従業員エンゲイジメント向上の観点からも、企業にとって大きな価値があります。
本コラムで紹介した手順や連携方法を参考に、自社の面接指導体制を見直してみてはいかがでしょうか。
よくある質問(Q&A)
Q1:高ストレス者が面接指導を申し出ない場合、企業はどうすればいいですか?
A: 申し出は労働者の任意ですが、企業側から積極的に勧奨することは可能です。具体的には、①不利益な取り扱いがないことを繰り返し周知する、②産業医や保健師から直接声をかける、③上司から促してもらう、④申出方法を簡素化する(メールやWebフォームで受付)など、心理的ハードルを下げる工夫が効果的です。
Q2:面接指導は必ず対面で実施しなければなりませんか?
A: 原則として対面での実施が推奨されますが、一定の要件を満たせばオンラインでの実施も可能です。具体的には、映像と音声が双方向でやり取りできる環境、表情が確認できるようカメラをオンにすること、通信環境が安定していること、プライバシーが保たれる環境で実施することなどが条件となります。
Q3:産業医にどこまで情報を提供すればいいですか?
A: 面接指導の質を高めるためには、ストレスチェック結果だけでなく、直近3カ月の時間外労働時間、業務の繁閑状況、職場の人員体制、過去の健康診断結果、ストレスチェックの経年変化などを提供することが推奨されます。ただし、情報提供は労働者の同意を得て行うことが原則であり、守秘義務を遵守する必要があります。
Q4:面接指導の申し出から実施までの期限はありますか?
A: 労働安全衛生法により、労働者から申し出があった場合、事業者は「遅滞なく」面接指導を実施する義務があります。具体的な日数の定めはありませんが、一般的には申し出から1カ月以内を目安とすることが望ましいとされています。
Q5:産業医から就業制限の意見が出た場合、必ず従わなければなりませんか?
A: 事業者は産業医の意見を尊重する義務がありますが、必ずしもその通りに実施しなければならないわけではありません。ただし、意見と異なる措置を講じる場合は、その理由を明確にし、労働者の健康を守るための代替措置を検討する必要があります。また、措置の決定にあたっては労働者の意見も尊重することが重要です。
Q6:面接指導の結果は人事評価に影響しますか?
A: 面接指導を申し出たことや、その結果を理由とした不利益な取り扱い(解雇、降格、減給など)は法律で禁止されています。面接指導は従業員の健康を守るための制度であり、人事評価とは切り離して運用する必要があります。この点を社内に徹底的に周知することが、申し出を促進する上で重要です。
Q7:面接指導後のフォローアップはどのくらいの頻度で行うべきですか?
A: 労働者の状態や事後措置の内容によって異なりますが、一般的には措置実施後1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後など、段階的にフォローアップを行うことが推奨されます。産業医や保健師による継続的な面談を通じて、措置の効果を確認し、必要に応じて見直しを行いましょう。
Q8:面接指導の記録は何年間保存する必要がありますか?
A: 労働安全衛生法により、産業医の意見書を含む面接指導の記録は5年間保存する義務があります。記録には、実施日時、労働者の氏名、産業医の意見、事業者が講じた措置の内容などを含める必要があります。
Q9:小規模事業場で産業医がいない場合はどうすればいいですか?
A: 常勤の産業医がいない事業場でも、面接指導は実施する必要があります。地域産業保健センター(労働者50人未満の事業場が対象)や、外部の産業医紹介サービスを活用することで、面接指導を実施できます。また、健康診断を委託している医療機関に相談するのも一つの方法です。
Q10:高ストレス者への面接指導を実施しなかった場合、罰則はありますか?
A: 労働安全衛生法に基づき、労働者から申し出があったにもかかわらず面接指導を実施しなかった場合、労働基準監督署から是正勧告を受ける可能性があります。また、面接指導を実施しなかったことが原因で労働者の健康が悪化した場合、企業の安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われるリスクもあります。


