経済産業省による健康経営優良法人の認定制度も後押しとなり、多くの企業が従業員の健康増進に注力するなど、「健康経営」への関心が高まっています。
メンタルヘルス対策は企業にとって経営リスクや経済的損失の回避だけではなく、健康経営を支えるものです。特に重要な施策の一つが「ストレスチェック」です。これは、単に法令を遵守するためだけでなく、組織のエンゲイジメントを測るためのデータとして機能しており、健康経営優良法人の認定制度でもどう活用しているかが問われています。
しかし、「健康経営に注力している」とアピールする企業の中には、このストレスチェックの受検率が伸び悩むという課題に直面している場合も少なくありません。
今回は、健康経営を推進する企業における、ストレスチェック受検率向上のポイントをお伝えします。
なぜ、従業員はストレスチェック受検に消極的なのか?
従業員がストレスチェック受検に消極的である要因のひとつは「不信感」です。
社員は「正直に答えたら、結果が人事や上司に知られて異動などに影響するのではないか」、「高ストレス者と判定されたら、仕事や評価に響くのではないか」という不安を抱えています。この不信感が、受検率向上を阻んでいるのです。
また、組織体制として、経営層の理解を深め、ストレスチェックの受検を後押しする雰囲気づくりも不可欠です。
ストレスチェック受検率向上の3つのポイント
1.安心感を得るための情報共有
「不信感」を減らしストレスチェック受検率を向上させるためには、「安心」の担保と「目的」の明確化が必要です。
安心を担保する情報開示として、まず、個人情報の管理体制について、繰り返し周知する必要があります。
- 「個人結果は本人の同意なく会社(人事部門や上司)に開示されることは絶対にない」という事実を経営層からのメッセージとして発信する
- ストレスチェックの実施者(産業医や保健師など)と、実施事務従事者の役割分担を明確にし、「誰がどの情報にアクセスできるのか」を具体的に示す
- ストレスチェックの実施者(産業医や保健師など)と、実施事務従事者の役割分担を明確にし、「誰がどの情報にアクセスできるのか」を具体的に示す
- 「高ストレスと判定された場合の医師による面接指導は任意であり、面談内容も本人の同意なしに会社に伝わることはない」ということを説明する
これらの情報を、メールや社内報、イントラネットなど、複数の方法で発信することが、社員の不安を和らげます。
2.経営層からのメッセージ発信
また、経営層からのメッセージも重要です。ストレスチェック受検を押しつけるのではなく「会社は皆さんの心身の健康を大切に考えている」という企業姿勢を伝えることが重要です。
経営層が直接、「健康経営の実現には、皆さんの正直な声が必要です。これは、皆さん自身を守り、職場の課題を可視化し、皆さんが働きやすい環境を会社が作るためのデータです」と、建設的なメッセージを発信しましょう。
「会社のための義務」から「自分たちのための行動」へと意識を変えるきっかけになります。
3.データを行動に変える「活用サイクル」の構築
「ストレスチェックを受検しても何も変わらない」という無力感も受検率を下げる要因です。この無力感を打破するためには、結果を具体的な「職場環境改善」につなげ、その成果を社員にフィードバックする必要があります。
特に重要なものとして「集団分析」が挙げられます。部署やチームごとの高ストレス者の割合、ストレス傾向や上司や同僚からのサポート状況などを客観的に把握することで、組織の課題や強みの特定につながります。 具体的な改善とフィードバック:全社および各部門のストレス傾向をマネジメント層にフィードバックする
- 具体的な改善とフィードバック:全社および各部門のストレス傾向をマネジメント層にフィードバックする
- 改善アクションの決定: データに基づき、長時間労働の是正や業務フローの見直し、コミュニケーション研修やハラスメント研修の実施など、具体的な対策を決定する
- 成果のフィードバック: 翌年のストレスチェック実施前に、「昨年の集団分析の結果を受け、〇〇という施策を実行しました」と、実績を全社員に周知する
「自分のストレスチェック受検が、職場の変化につながっている」という実感を得られ、ストレスチェックに対する信頼感と次回への協力意識が醸成されます。
まとめ
ストレスチェックの低受検率を打破することは、単なる数字の達成ではなく、企業と社員の間にある「信頼関係」を再構築するプロセスです。
社員の不安を払拭し、「安心」を保証すること。そして、集まったデータを「職場環境改善」という行動に変え、その成果を正直に共有すること。この継続的なサイクルこそが、ストレスチェックを義務から「健康経営の柱」へと進化させ、社員のエンゲイジメントを高める鍵となるでしょう。
よくある質問(Q&A)
Q1. ストレスチェックの受検率が低い原因は何ですか?
最も多い原因は従業員の「不信感」です。「結果が人事に知られて評価に影響するのではないか」という不安から、正直に回答することを避けたり、受検そのものを敬遠したりするケースが見られます。また、「受検しても何も変わらない」という無力感も受検率低下の要因です。
Q2. ストレスチェックの受検率を上げるにはどうすればいいですか?
3つのポイントがあります。①個人情報の管理体制を繰り返し周知し、安心感を担保する。②経営層から「従業員の健康を大切にしている」というメッセージを発信する。③集団分析の結果を職場環境改善につなげ、その成果を全社員にフィードバックする。この3つを継続的に実施することで、受検率は向上します。
Q3. ストレスチェックの結果は会社に知られますか?
個人の結果は本人の同意なく会社(人事部門や上司)に開示されることは法律で禁止されています。ストレスチェックの実施者(産業医や保健師など)と実施事務従事者には守秘義務があり、本人の同意なしに結果を会社に伝えることはありません。
Q4. 高ストレス者と判定されたら、会社に報告されますか?
いいえ、報告されません。高ストレス者と判定された場合、医師による面接指導を申し出ることができますが、これは任意です。また、面接指導を受けた場合でも、面談内容は本人の同意なしに会社に伝わることはありません。
Q5. 集団分析とは何ですか?
集団分析とは、部署やチームごとの高ストレス者の割合、ストレス傾向、上司や同僚からのサポート状況などを客観的に把握する分析手法です。個人を特定できない形でデータを集計するため、プライバシーは保護されます。この分析結果をもとに、職場環境改善の施策を立案できます。
Q6. 受検率を上げるために経営層は何をすべきですか?
経営層からのメッセージ発信が非常に重要です。受検の「義務」として押しつけるのではなく、「会社は皆さんの心身の健康を大切に考えている」という姿勢を伝えましょう。また、集団分析の結果に基づいた改善施策を実施し、その成果を全社員に周知することで、「自分の受検が職場の変化につながっている」という実感を持ってもらうことができます。
Q7. 健康経営優良法人の認定にストレスチェックは必要ですか?
はい、健康経営優良法人の認定要件にはストレスチェックの実施とその活用が含まれています。単に実施するだけでなく、集団分析の結果をどのように職場環境改善につなげているかが評価されます。


