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マネジメントの視点からストレスチェックのデータをみてみよう①ハラスメント

最終更新日 2023-03-30

長引くコロナ禍の影響からコミュニケーションの取り方や質、量が変化しました。
また、コロナによる終わりの見えないストレスにさらされているためか、担当者の方から、ハラスメントに関する相談を受ける機会が増えたように感じます。
そこで今回からは、シリーズ「マネジメントの視点からストレスチェックのデータをみてみよう」と称して、ハラスメントと職場環境について考えていきます。

ストレスチェックでハラスメントの状況を知る方法

ストレスチェックにハラスメントに関する具体的な質問があることはご存じでしょうか。
厚生労働省推奨の新職業性ストレス簡易調査票80問版には、「職場で自分がいじめにあっている(セクハラ・パワハラを含む)」という設問があります。
設問からわかる通り、これは職場内でのセクハラ・パワハラを含む被害についての自覚を問う質問です。
受検者は「そうだ」「まあそうだ」「ややちがう」「ちがう」の4段階で回答を行います。
2021年度ドクタートラストでストレスチェックを受検した32万人のデータでは、「そうだ」は1.5%、次いで「まあそうだ」4.7%、「ややちがう」16.3%、「ちがう」77.6%でした。

ストレスチェックにおける尺度別平均点※は1.29。
これよりも数値が高い(不良)な場合は、ハラスメントを訴えている人が全国にくらべて多い可能性が高いと考えられます。
しかし、注意すべきはこの設問が、ハラスメントが起きているか否かを具体的に問うものではない、という点です。
特にパワハラなどは定義が置かれているものの、設問でわかるのはあくまで本人の自覚の有無です。
たとえ適切な指導を受けているだけであっても、本人が何らかの理由で強い拒否感を起こしている場合には「そうだ」と回答する可能性もあります。
そのため、職場のハラスメント傾向を知るためにはこの設問の回答の内訳とともに、他の尺度の回答の傾向も合わせて分析していく必要があります。

ハラスメントが起きやすい職場の特徴

厚生労働省が2021年4月に公表した「令和2年度職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間で全体の相談件数が減少しているのに対し、パワハラは「件数は変わらない」の割合が最も高く、さらに脚光を浴びることの多くなってきたカスハラ(カスタマーハラスメント・顧客等からの著しい迷惑行為を指す)のみ「件数が増加している」の割合が「減少している」より高い結果でした。
ただし、一口に「パワハラ」といっても、3つのレベルがあると言われています。
誰の目にも明らかな、殴る蹴るなどによってけがを負わせるような犯罪レベルのパワハラ、損害賠償の対象や、違法性が認められるような民事・労働法レベルのパワハラ、そして、上司が常に怒鳴っている、営業ノルマが客観的に厳しいなど、労働者が不満や意欲低下が発生するような、職場環境悪化レベルのパワハラです。
このうち職場環境悪化レベルのパワハラは、従業員の生産性の低下にもつながり、離職のリスクなども増加します。
ハラスメント回答にかかわらず、ハラスメントが生まれづらい職場環境へと導く必要があります。

また、以下のような風土のある職場ではハラスメントが起きやすいと言われています。

【ハラスメントが起きやすい職場環境チェックリスト】
① 朝夕の出退社のとき、挨拶をする人がほとんどいない。
② トップや管理職は、自分の職場にはパワハラが存在しないと考えている。
③ 人は厳しく指導することで育つという意識が強い職場だ。
④ 今の職場には失敗やミスが許されない雰囲気がある。
⑤ 業務上のノルマが厳しく求められ、目標が達成できなかった時のペナルティが大きい。
⑥ 上司に対して、意見や反論は言えない雰囲気だ。
⑦ 職場の誰かが困っていても、助け合える雰囲気ではない。
⑧ 職場内での問題について、職場内で話し合って解決しようとする雰囲気がない。
⑨ 正社員やパート、派遣社員等、さまざまな立場の人が一緒に働いているが、上下関係が絶対的で、立場を意識した発言が散見される。
⑩ 人の陰口や噂を耳にすることが多い。

自部署の状況を思い起こし、当てはまる項目がある場合には要注意です。
しかし、それ以上に注意が必要なのは、当てはまる項目があるかどうかの認識が、マネジメント層と現場に乖離があるケースです。
上長には挨拶をしているので活気がある職場かと思いきや、横のつながりがまったくなかったり、厳しく指導しているつもりはないけれども、部下が非常に強いプレッシャーを感じていたりする場合は状況に気づくのが遅れる、緊急性があるにもかかわらず、見逃してしまう可能性もあります。
客観的に結果を知る方法はないのでしょうか。

ハラスメントの対策としてみるべきストレスチェック項目とは

実はストレスチェックの回答の傾向から、こうした職場環境を知ることができます。

まず大切なのは、「上司によるサポート」「同僚によるサポート」の項目です。
この尺度は、「どのくらい気軽に話ができるか」、「困った時どのくらい頼りになるか」、「個人的な問題を相談したらどのくらい聞いてくれるか」の3設問で構成されています。
上記リストの①のように挨拶をする人がほとんどいないような職場では、上司・同僚と気軽に話ができない職場環境である可能性が高く、また上司・同僚は「困った時どのくらい頼りになるか」に対して不良な回答が多い場合、⑦の職場の誰かが困っていても、助け合える雰囲気ではないと皆が感じている可能性があります。
ストレスチェックにはこのほかに「失敗を認める職場」という尺度もあります。
この尺度の結果が不良な場合、④の今の職場には失敗やミスが許されない雰囲気が当てはまることでしょう。
このようにハラスメントの起きやすい風土の有無は、ストレスチェックの各尺度との紐づけてはかることができます。
まずは全社の、そして可能であれば部署ごとなどによる集団ごとに回答の傾向を調べ、部署ごとの課題を整理していくことが大切です。

ストレスチェックは同じ職場で働く社員の生の声です。正確かつ丁寧に取り扱うことで、職場の状況を正しく認識するサーベイとしての役割も果たします。
厚生労働省が2017年4月に公表した「平成28年度調査 職場のハラスメントに関する実態調査」によれば、「パワーハラスメント事案をどこで把握したか」では、従業員1,000人以上の企業では「社内または社外に設置した従業員向けの相談窓口で」が91.9%と最も高いのに対し、従業員99人以下の企業では24.3%でした。
規模が小さいほど、相談窓口を設置してあったとしても、自分から相談することのハードルが高いものです。
だからこそ、事態が悪化し、取り返しがつかない状況に発展する前に、上長がいかに状況に気づくことが大切です。
日々の生活の中だけでなく、客観的にストレスチェック結果を分析することで、より皆が働きやすい職場を作り上げることができるのです。

ストレスチェックは職場環境を改善して初めて目的が達成されると、私は企業の皆様とお話しする際、繰り返しお伝えしています。
ストレスチェックを実施したものの活用したことがない、こんなに詳細な分析ができるなんて考えてもみなかった――。
そんなときにはぜひ、我々コンサルタントにお問合せください。

DL

執筆者

【シニアコンサルタント】大沼 文音
【保有資格】産業カウンセラー/上級ハラスメントマネージャー
【コメント】典型的なブラック企業で数年働いた経験から「働きがい」や「仕事の楽しさ」は作ることができても、職場環境は一人の力ではつくることはできないと知り、楽しく働き続けられる職場環境に興味を持ちました。現在は産業カウンセラーとしての知識も活かし、多くの企業に携わりながら、皆が楽しく働ける職場づくりを目指しています。

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