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<職場環境とワーク・エンゲイジメントを考える>第1回:テレワークはワーク・エンゲイジメント向上の秘策となるか

最終更新日 2023-01-10

コロナの感染拡大を防ぐ観点からテレワーク導入が推奨され、2年が経過しようとしているなか、テレワークのメリット・デメリット双方の視点からの分析も蓄積され、さまざまな課題が明らかとなっています。
現在は感染拡大(第6波)の渦中にあるものの、4月から新入社員を迎える企業の多くが、より生産性の高いテレワーク運用に向けた対策に追われています。
果たしてテレワークはコロナ終息後も継続をするに足る施策となり得るのでしょうか。

今回からシリーズで、テレワークとワーク・エンゲイジメントの関係をわかりやすく解説します。

テレワーク導入の実態

東京都産業労働局の調査によれば、オミクロン株が猛威を振るい始めた2022年1月時点での都内企業(従業員30人以上)のテレワーク実施率は57.3%でした。
300名以上の大企業においては78.3%と依然として高い水準を維持していますが、50名未満の企業では50.5%とおよそ半数にとどまっています。

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<出所元>東京都産業労働局「テレワーク実施率 1月の調査結果」

また、2020年4月に発出された1回目の緊急事態宣言期間に東京都新型コロナウイルス感染症対策本部が実施した「テレワーク「導入率」緊急調査結果」によると、回答者952人の平均テレワーク日数が「勤務日数の6割」だったのに対し、2022年1月時点では、週3以上のテレワークを導入は43.3%で、在宅勤務とテレワーク双方を取り入れた働き方を選択する企業が増加している様子がうかがえます。
背景として考えられるのは、コミュニケーション不足です。

テレワークによるコミュニケーション不足の弊害

テレワークの課題として挙げられる代表的なものとしては「ITリテラシーの低さ」「勤怠管理の難しさ」といったリソース面もありますが、筆頭はやはり「コミュニケーション不足」です。

実際、2021年12月に株式会社学情が企業の人事担当者を対象に実施した「テレワークが、入社1年目の社員の活躍にもたたらす影響」の調査結果によると、4割の企業が「テレワークが入社1年目の活躍に影響している」と回答し、具体的には「上司や先輩との人間関係が築けていない」「同期間での人間関係が築けていない」が上位に入っていました。
対面で仕事をするのとは異なり、相手のタイミングが計りづらくなった点が大きく影響を及ぼしているのでしょう。

同調査では「若手社員がテレワークをする際に課題となる点」として、「モチベーション状態をつかみにくい」に次いで「報連相などのコミュニケーション不足」が挙げられています。
特に自発的なコミュニケーションを苦手とするタイプの新人の場合は、困ったことがあっても先輩に声をかけづらく、新人が困っていることに先輩が気付きづらい悪循環が生まれます。
また、社内の状況が視界に入らなくなったことにより、先輩社員が何をしているのか、自分の上司はどんな仕事をしているのかがまったく見えず、「自らの未来像を描きづらくなった」という声も筆者は耳にしました。
「背中で語る」とは古き時代の表現ですが、丁寧なコミュニケーションによる指導が基本となっている現在でも、先輩の働く姿から学べることは少なくないと言えるでしょう。

さらに人事評価方法も課題があります。
ProFuture株式会社が2021年に企業の人事責任者、担当者265人を対象に実施した「テレワーク下における人事評価の実態調査」によれば、74%の企業が「テレワーク下では人事評価が出社時よりも困難である」と回答し、さらに5%の企業が「テレワーク対応のためにすでに人事評価に変更を加えた」、43%の企業が「変更を検討している」と回答しています。
実際、社員の働いている姿勢が見えなくなったため、成果物や数字により重きを置いた成果主義の評価方式に切り替えたことで功を奏した企業の事例を筆者は目にしました。
一方で、自らの評価に対して疑問を抱く社員のケースも増えていることも見逃せない事実です。

こうした課題のためにテレワークに価値を見出せず、導入しなかった、また一度は導入した者の現在は出勤勤務に戻っている企業も少なくありません。
しかし依然として大企業では高い水準が維持されているテレワーク、正しい運用を行うことで課題を解決し、従業員・企業ともに大きなメリットを保った運用が可能となることは間違いなさそうです。

テレワーク導入によるワーク・エンゲイジメント向上

株式会社日経リサーチが2020年に三大都市圏の民間企業勤務者を対象に実施したテレワークと働きがいについての調査によれば、在宅制度が導入されたことによって働きがいが高まったと感じる人は、在宅制度の導入がなされなかったグループにくらべて2.5倍となりました。

テレワークで通勤時間を含む負担が軽減し、自分にとって働きやすいかたちで業務に集中できるようになること、さらにコロナによる精神的不安やストレスの軽減から会社が従業員を大切に思っていると実感できていることが大きいでしょう。
本来、個人が働きやすい職場環境を選択できることは、個々の生産性向上につながります。
もしテレワークによる管理に大きな課題を感じるとすれば、企業側の管理体制の問題ともいえます。
出勤勤務で従業員の生産性を担保できるのであれば、出社のメリットをうまくテレワークに落とし込めるかどうかがカギです。
出勤勤務とテレワーク、双方の間の「仕事の仕方の溝」を埋めるところから始める必要があるでしょう。

次回はテレワーク上での丁寧なコミュニケーションについて考えていきます。

DL

<参考>
・ 東京都産業労働局「テレワーク実施率 1月の調査結果」
・ 東京都新型コロナウイルス感染症対策本部が実施した「テレワーク「導入率」緊急調査結果」
・ 株式会社学情「テレワークが入社1年目の活躍に「影響している」の回答が4割を超える。「電話対応など、ビジネスマナーを習得しにくい」「Web会議やチャットだけではコミュニケーションが不足」の声/人事担当者アンケート」
・ ProFuture株式会社「テレワーク下における人事評価の実態調査」
・ 株式会社日経リサーチ「コロナ禍で広がるテレワーク~働き方改革にどう影響」

執筆者

【シニアコンサルタント】大沼 文音
【保有資格】産業カウンセラー/上級ハラスメントマネージャー
【コメント】典型的なブラック企業で数年働いた経験から「働きがい」や「仕事の楽しさ」は作ることができても、職場環境は一人の力ではつくることはできないと知り、楽しく働き続けられる職場環境に興味を持ちました。現在は産業カウンセラーとしての知識も活かし、多くの企業に携わりながら、皆が楽しく働ける職場づくりを目指しています。

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